ブロックチェーン学習ロードマップ

ブロックチェーンの外部データ連携技術:オラクルの仕組みと実装パターン

Tags: ブロックチェーン, オラクル, スマートコントラクト, DApp, 分散システム

はじめに:なぜブロックチェーンは外部データが必要なのか?

ブロックチェーン技術は、データの非中央集権的な管理と改ざん耐性によって注目を集めています。しかし、ブロックチェーン上のスマートコントラクトは、基本的にブロックチェーン内部のデータしか参照できません。これは、ブロックチェーンが「決定論的」である必要があるためです。すべてのノードが同じトランザクションを実行し、同じ結果を得るためには、外部の不確実な要因に依存しない必要があります。

例えば、スポーツの試合結果に基づいて賭け金を精算するスマートコントラクトや、特定の株価に連動して資産を移動させるスマートコントラクトを考えてみましょう。これらの契約を実行するには、ブロックチェーン外部の現実世界の情報(試合結果や株価データ)が必要です。しかし、スマートコントラクトはインターネット上のAPIを直接呼び出すことができませんし、中央集権的な単一の情報源に依存すると、その情報源が改ざんされたりオフラインになったりした場合に問題が発生します。

ここで登場するのが「オラクル(Oracle)」です。オラクルは、ブロックチェーンと外部世界をつなぐ「橋渡し」の役割を担う技術要素です。

オラクルとは

オラクルとは、スマートコントラクトが必要とする外部の情報を取得し、検証し、ブロックチェーン上に供給するサービスまたはシステムのことです。オラクル自体が情報源となるわけではなく、信頼できる情報源からデータを収集し、そのデータをブロックチェーンが利用できる形式に変換して提供します。

オラクルの主な役割は以下の通りです。

  1. データ収集: 外部の情報源(Web API、データベース、センサーなど)から必要なデータを取得します。
  2. データ検証: 取得したデータが正確かつ信頼できるものであるかを確認します。特に分散型オラクルの場合、複数の情報源やノードからのデータを照合することで信頼性を高めます。
  3. データ提供: 検証済みのデータをブロックチェーン上のスマートコントラクトに供給します。これは通常、特定のスマートコントラクト(オラクル契約やデータフィード契約など)を介して行われます。

オラクルの種類

オラクルは、その性質や機能によっていくつかの方法で分類できます。

1. ソースによる分類

2. 方向性による分類

3. 信頼性による分類

特に、ブロックチェーンの分散性というメリットを活かすためには、中央集権型オラクルではなく、分散型オラクルが技術的に重要となります。

分散型オラクルの技術的な仕組み

分散型オラクルシステムは、データの信頼性を確保するために様々な技術的手法を組み合わせています。一般的な分散型オラクルシステムの仕組みを見てみましょう。

データ取得と集約のプロセス

  1. データリクエスト: スマートコントラクト(「リクエスター契約」と呼びます)が特定の外部データが必要になった際、オラクルシステムに対してデータリクエストを生成します。
  2. リクエストのルーティング: オラクルシステムは、このリクエストを受け付け、適切なオラクルノードやデータソースにルーティングします。
  3. データ収集: 複数の独立したオラクルノードが、それぞれ指定された外部情報源(複数のWeb APIなど)からデータを収集します。各ノードは、指定されたURLからHTTPリクエストを実行したり、特定のセンサーデータを読み取ったりします。
  4. データ検証・集約: 各オラクルノードから収集されたデータは、「集約契約」と呼ばれる別のスマートコントラクトに送信されます。集約契約は、受信した複数のデータを比較し、事前に定義されたアルゴリズム(例:中央値、平均値)に基づいて最終的な単一の値を決定します。これにより、一部のノードからの誤ったデータや悪意のあるデータを排除し、データの信頼性を高めます。
  5. データ提供: 集約契約によって決定された最終的なデータは、最初にリクエストを行ったリクエスター契約にコールバックとして送信されます。これにより、スマートコントラクトは信頼性の高い外部データを利用してロジックを実行できます。

信頼性を高めるためのメカニズム

分散型オラクルは、単に複数のデータソースやノードを使うだけでなく、さらに信頼性を確保するための技術や経済的なインセンティブを取り入れています。

これらのメカニズムは、オラクルノードが正確なデータを提供することを経済的・技術的にインセンティブづけるとともに、不正なデータがブロックチェーンに取り込まれるリスクを最小限に抑えることを目指しています。

オラクルの技術的課題(オラクル問題)

分散型オラクルは中央集権型オラクルよりも信頼性は高いですが、依然として課題は存在します。これを広義の「オラクル問題」と呼ぶことがあります。

これらの課題に対し、業界では様々な研究やプロトコルの開発が進められています。

スマートコントラクトでのオラクル利用イメージ

スマートコントラクトからオラクルを利用する際のコードイメージを、Ethereumで広く使われるSolidity言語の疑似コードで考えてみます。

// 外部のオラクル契約のアドレスを指定
address oracleAddress = 0x123...;

// オラクル契約のインターフェースを定義(オラクルシステムによって異なる)
interface IOracle {
    function requestData(string memory key, uint256 callbackId) external;
    function getData(uint256 callbackId) external view returns (bytes memory);
}

// オラクルを利用するスマートコントラクト
contract MyDApp {
    mapping(uint256 => uint256) public dataRequests; // リクエストIDと対応するデータ

    function requestLatestPrice(string memory symbol) public {
        // オラクル契約のインスタンスを生成
        IOracle oracle = IOracle(oracleAddress);

        // 一意のリクエストIDを生成(ここでは簡単な例)
        uint256 requestId = block.timestamp;

        // オラクルに対してデータリクエストを送信
        // symbol(例: "ETH/USD")と、データが返ってきたときに呼び出すコールバックIDを渡す
        oracle.requestData(symbol, requestId);

        // リクエストの状態を記録
        dataRequests[requestId] = 0; // 初期値
    }

    // オラクルからデータが返ってきたときに呼び出されるコールバック関数
    // オラクル契約からのみ呼び出せるように制限する必要がある(実装は省略)
    function fulfillData(uint256 requestId, bytes memory responseData) public {
        // オラクル契約からの呼び出しであることを確認するロジック...

        // 応答データ(bytes)を必要な型に変換(例: uint256)
        // 変換ロジックはresponseDataのフォーマットに依存
        uint256 price = abi.decode(responseData, (uint256));

        // 取得したデータを利用してスマートコントラクトのロジックを実行
        dataRequests[requestId] = price;

        // 例: 価格が特定の閾値を超えたら何かのアクションを起こす
        if (price > 3000) {
            // executeSomeAction();
        }
    }
}

この疑似コードは、スマートコントラクトがオラクル契約を呼び出し、特定のデータをリクエストする基本的な流れを示しています。オラクルシステムは、このリクエストを受け取って外部からデータを収集し、検証・集約した後に、元のスマートコントラクトのfulfillDataのようなコールバック関数を呼び出して結果を返します。実際のオラクルプロトコル(例: Chainlink, Band Protocol)では、データ形式やリクエスト・コールバックの方法、信頼性メカニズムの実装などが異なります。

まとめと次のステップ

オラクルは、ブロックチェーン技術が現実世界の多様な情報と連携し、より複雑で有用なアプリケーション(DApp)を実現する上で不可欠な要素です。ブロックチェーンの決定論的な性質により外部データへの直接アクセスが制限される課題を解決し、スマートコントラクトの可能性を大きく広げます。

特に分散型オラクルシステムは、中央集権型オラクルが抱える単一障害点や改ざんリスクを低減するために、複数のノードやデータソース、そしてインセンティブメカニズムを組み合わせることで、データの信頼性を高めています。しかし、「真実性の保証」といったオラクル問題の根本的な課題については、技術的な解決策だけでなく、信頼できる情報源の選定やプロトコル設計が重要となります。

ブロックチェーンの学習を進める上で、オラクルはスマートコントラクト開発や特定のDAppの仕組みを理解する上で重要なトピックです。

次のステップとして、以下の内容を学ぶことをお勧めします。