ブロックチェーン学習ロードマップ

ブロックチェーンのトランザクションとブロックを検索する仕組み

Tags: ブロックチェーン, トランザクション, ブロック, 検索, 技術解説

はじめに

ブロックチェーンは、データの改ざんが困難な分散型の台帳技術です。ビットコインやイーサリアムのようなパブリックブロックチェーンでは、誰でもネットワーク上のデータを検証したり、特定のトランザクションやブロックの情報を参照したりできます。Webエンジニアの皆さんにとって、ブロックチェーンエクスプローラー(例:Etherscan, Blockchain.comなど)で過去のトランザクションやブロックを検索した経験があるかもしれません。

では、なぜブロックチェーンのような巨大で分散したデータの中から、特定の情報(トランザクションやブロック)を素早く見つけ出すことができるのでしょうか?従来のデータベースにおけるインデックスのような仕組みと、ブロックチェーンの検索にはどのような違いがあるのでしょうか。

この記事では、ブロックチェーン上でトランザクションやブロックを検索するための基本的な仕組みと、それを可能にする技術的な側面について解説します。

ブロックチェーン上のデータの構造

ブロックチェーンは、その名の通り「ブロック」が連鎖した構造をしています。各ブロックには、以下の主要な要素が含まれています。

そして、各トランザクションもまた、送信元アドレス、送信先アドレス、送金額、手数料、署名などの情報を含んでいます。

この構造において、各ブロックは直前のブロックのハッシュ値を持つことで「鎖(チェーン)」のようにつながっています。この性質が、データの改ざん検知を容易にしていますが、特定の情報(例えば「どのアドレスがいつ、誰にいくら送ったか」というトランザクション)を効率的に検索するためには、いくつかの技術的な工夫や前提が必要になります。

ブロックチェーンにおける基本的な検索キー

ブロックチェーン上で特定の情報を見つけるために最も一般的に使用されるキーは、以下の通りです。

1. ハッシュ値による検索

最も高速かつ確実に特定の情報を見つけられる方法です。

ハッシュ値はデータの同一性を保証する一意の識別子であり、ブロックチェーンネットワーク上のノード(データを保持しているコンピュータ)は、通常、ハッシュ値をキーとしてトランザクションやブロックのデータを効率的に参照できるようになっています。これは、キー・バリュー型のデータストアに似た感覚で捉えることができます。

2. ブロック高(ブロック番号)による検索

ブロックは生成された順に番号が振られていきます(ジェネシスブロックを0または1として)。特定のブロック高を指定することで、その位置にあるブロックを参照できます。ブロックハッシュはブロックの内容が変われば変化しますが、ブロック高はチェーン上の位置を示します。特定のブロック高を知っていれば、そのブロックのハッシュ値、含まれるトランザクション、タイムスタンプなどを取得できます。

アドレスによるトランザクション検索

Webエンジニアがブロックチェーンエクスプローラーで最も頻繁に行う検索の一つが、「特定のアドレスに関連する全てのトランザクションを見る」ことかもしれません。これは、上記のハッシュやブロック高による検索とは性質が異なります。

ブロックチェーンの基本的なデータ構造では、トランザクションは「どのブロックの、何番目のトランザクション」として格納されています。トランザクションそのものには、送信元アドレスと送信先アドレスが記録されています。しかし、ブロックチェーン自体が「どのアドレスが関与したトランザクションのリスト」を直接的にインデックス化しているわけではありません(少なくとも基本的な構造においては)。

したがって、特定のアドレスに関連する全てのトランザクションを検索するためには、通常以下のいずれかの方法が取られます。

  1. 全ブロック・全トランザクションのスキャン: 理論上は、ジェネシスブロックから最新ブロックまですべてをたどり、各ブロック内の全トランザクションを調べて、指定したアドレスが送信元または送信先になっているものを抽出することで実現できます。しかし、ブロックチェーンのサイズは増大し続けているため、これは現実的な方法ではありません。
  2. 特化されたインデックスの利用: ブロックエクスプローラーのようなサービスや、ブロックチェーンのデータを効率的にクエリするためのサービス(APIプロバイダーなど)は、アドレスごとにトランザクションを検索できるように、ブロックチェーンのデータを読み込んで独自のデータベースやインデックス構造を構築しています。彼らはブロックチェーンを継続的に同期し、各トランザクションから送信元/送信先アドレスを抽出し、「アドレスAが関与したトランザクションリスト」といった形で二次的なインデックスを作成しています。この二次的なインデックスに対してクエリを実行することで、特定アドレスのトランザクション履歴を素早く取得できるようになります。

これは従来のデータベースシステムにおける「インデックス」に近い考え方ですが、ブロックチェーン自体が持つ分散台帳の構造とは切り離された、検索サービス側の実装によるものです。フルノードソフトウェアも、アドレスによる高速な参照のために最適化されたデータ構造(LevelDBなどの組み込みデータベース)を使用している場合があります。

コードによる検索イメージ

ブロックチェーンのデータをプログラムから参照するには、ブロックチェーンノードと通信するためのライブラリを使用するのが一般的です。例えば、イーサリアムネットワークであれば、JavaScript向けのWeb3.jsやEthers.js、Python向けのWeb3.pyなどがあります。

これらのライブラリを使用すると、ノードに対してRPC(Remote Procedure Call)を通じてクエリを発行できます。

ブロック高を指定してブロックを取得する(JavaScript/Ethers.js 疑似コード)

// プロバイダー(ノードへの接続情報)を設定
// const provider = new ethers.JsonRpcProvider("YOUR_RPC_URL");

// 非同期関数内で実行
// async function getBlockByNumber(blockNumber) {
//   try {
//     const block = await provider.getBlock(blockNumber);
//     console.log("Block Hash:", block.hash);
//     console.log("Number of Transactions:", block.transactions.length);
//     // blockオブジェクトから様々な情報を取得可能
//   } catch (error) {
//     console.error("Error fetching block:", error);
//   }
// }

// 例: ブロック高 10000000 のブロックを取得
// getBlockByNumber(10000000);

トランザクションハッシュを指定してトランザクションを取得する(JavaScript/Ethers.js 疑似コード)

// プロバイダーを設定
// const provider = new ethers.JsonRpcProvider("YOUR_RPC_URL");

// 非同期関数内で実行
// async function getTransactionByHash(txHash) {
//   try {
//     const tx = await provider.getTransaction(txHash);
//     if (tx) {
//       console.log("From:", tx.from);
//       console.log("To:", tx.to);
//       console.log("Value (WEI):", tx.value.toString()); // 送金額
//       console.log("Block Number:", tx.blockNumber);
//       // txオブジェクトから様々な情報を取得可能
//     } else {
//       console.log("Transaction not found.");
//     }
//   } catch (error) {
//     console.error("Error fetching transaction:", error);
//   }
// }

// 例: 特定のトランザクションハッシュを指定
// const transactionHash = "0x..."; // 実際のトランザクションハッシュに置き換える
// getTransactionByHash(transactionHash);

これらの例は、ノードがハッシュやブロック高をキーとしたデータ参照に効率的に対応していることを示しています。アドレスによる検索APIも提供されていますが、その裏側では前述のような二次インデックスが利用されている場合が多いことを理解しておくと良いでしょう。

まとめと次のステップ

ブロックチェーン上のデータ検索は、主にハッシュ値やブロック高といったブロックチェーン固有の識別子をキーとして効率的に行われます。特にハッシュ値は、特定のトランザクションやブロックを一意に特定し、高速に参照することを可能にしています。

一方、特定のアドレスに関連する全てのトランザクションを検索するといった、より応用的なクエリに対しては、ブロックチェーンの基本的な線形構造だけでは効率が悪い場合があります。このため、ブロックエクスプローラーなどのサービスは、ブロックチェーンのデータを読み込んで独自のインデックス構造を構築し、高速なアドレス検索などを実現しています。

この知識は、ブロックチェーンエクスプローラーがどのように機能しているかを理解する助けになるだけでなく、自身がブロックチェーン関連のアプリケーションを開発する際に、データの参照方法や、RPC/APIの活用方法を検討する上で基礎となります。

次のステップとして、以下のテーマについて学習を進めることをお勧めします。

これらの技術要素を深く理解することで、ブロックチェーンデータとの効果的な連携方法が見えてくるでしょう。